日露戦争~第一次世界大戦(明治37年~大正7年/1904~1918)
親とも思ひ僕とも
妻とも事も思ひたる
ああわが馬よ磨墨よ
何故お前は死んだのだ
ここ満州のきび畑
たふれし馬の鬣を
さすりつ呼べる一士官
聲ふるはして目に涙
指折り繰れば五年前
わが乗る馬と定まった
口にはいはねど心では
そのとき兄と誓ひしぞ
多くの人に送られて
日本の国を去りしとき
遠き故郷を眺めては
お前と一緒に泣いたぞや
寒い風吹く山の上
弾丸に雨ふる森の中
我は誰かを頼むべき
命の親と思ひしぞ
起き臥しするも二人づれ
いずこへ行くも二人づれ
はなれしこともなきものを
何故お前は死んだのだ
天晴れ手柄をした上で
再び国へ歸つたら
お前と共に褒められて
大きい顔もしてみたい
少しは楽もさせやうに
ああもかうもと思ひしに
これがこの世の別れとは
天をも我は恨むぞや
敵地へ来てからこ一年
危ういところへ飛びこんで
よく忠實に働いた
この恩はいつかは忘るべき
決して怨んでくれるなよ
天皇陛下もお喜び
名誉の戦死を遂げたのだ
立派な手柄をしてくれた
ほつておいては済まないが
いま戦争は半ば故
遅れて恥を見やうより
我は直ちに進むぞや
最後の水を飲めよとて
口に水入れ押し當てて
南無阿弥陀仏と手を合はす
武士の情けに感じたか
かすかに噺く馬のこえ
折から聞こゆるときの聲
唇噛みし一士官
三日月眺めしのび泣く
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